「島バナナ」とは

沖縄で「島バナナ」と呼ばれているバナナがあります。
このバナナは「小笠原種」とも呼ばれており、フィリピンの果指(実)が短い種類のバナナが小笠原に伝わり、沖縄に渡って沖縄に根付いたと言われています。

「小笠原種」でいう表現の〇〇種は〇〇の仲間との意味合いですので、ここではバナナの品種の1つとして扱うことにします。

ここからは、沖縄県農林水産部  高橋健さんに取材しお聞きした「島バナナとは」について掲載いたします。
(沖縄県農林水産部 中部農業改良普及センター 農業技術班 果樹担当 主任技師 高橋 健さん)


何をもって「島バナナ」と呼ぶかの見解

沖縄で採れる「小笠原種」のバナナを「島バナナ」と呼ぶ見解

小笠原種を「島バナナ」とすることは、多くの人が支持している考え方です。

尚、フィリピンから導入されている時点で導入品種です。

果指が短いバナナの総称はモンキーバナナですが、総称されているものの中で小笠原種とも言われるバナナに限り「島バナナ」と呼ばれています。

島バナナの定義については特に決まりはなく、感覚的な受け止め方でこれまで「島バナナ」と呼ばれています。

2000年に、八重山農業改良普及センターで果樹担当をされていた仲本さんという方が、『島バナナの低茎化低着果技術の手引き』という冊子を執筆されています。
翌年、本冊子は沖縄県農業会議が重版されています。
本冊子は、出版され、沖縄県内の農業者等に無償で配布されましたが、商業出版はされておらず、書店には並んでいません。

その冊子に、1888年に小笠原から島バナナ(小笠原種)が沖縄県に導入された旨が書かれています。

仲本さんは自らの畑で、科学的な知見に基づいてデータをとっているだけでなく、その試験の全経費を仲本さん自身が負担されています。
公的機関から刊行された資料のデータ取得、冊子作成に係る執筆等、作業等が職務以外で行われ、それを無償で公開されたことは、偉業といえます。

仲本さんが冊子の執筆にあたって参考にしたのではないかと考えられる文献があります。
『果樹農業発達史』という文献には、『沖縄県国頭郡旧国頭農会ほ場「沖縄における果樹資料」』という資料に、国頭郡長朝武士干城が明治 21 年 (1888 年)に、小笠原から国頭農会ほ場にバナナを導入したことが記載されています。

「島バナナ」という呼び名は、仲本さんが冊子を執筆した頃には、沖縄において馴染みのあるものになっていたと考えられます。
1997年に琉球大学法文学部の野入直美先生が『島バナナと沖縄社会』という冊子を作成されていますが、その中で、以下のように記述されています。

沖縄でふつうバナナと言えば、他府県でもおなじみのフィリピン産バナナか、それより小さくて黒ずみやすいが独特の甘みと酸味のある地元産の島バナナである

尚、島バナナは小笠原種と言われていますが、小笠原から導入されたということしか沖縄ではほとんど知られていません。

「沖縄で採れたバナナはすべて島バナナ」という考え方

「沖縄で採れたバナナはすべて島バナナだ」という考え方もあります。
沖縄の人は良いと感じるものの多くを “島〇〇”と呼びます。
例えば、“島通り” “島ラッキョウ”、市場ではアップルマンゴーのことを“島マンゴー”と表しています。
このように、いいものはすべて “島”だという考え方があります。

その考えから、品種や系統などは関係なく、沖縄で採れたバナナをすべて「島バナナ」と呼ぶ人もいます。

島バナナのルーツ・品種

以下、小笠原種を「島バナナ」として話を進めます。

島バナナが小笠原原種だとするならば、小笠原の人たちは、そのバナナのことをどう認識しているのかというと、フィリピンから導入されたと認識しているようです。
そして、フィリピン・小笠原・沖縄の順番で伝わったのだろうと言われています。

それでは、フィリピンの何という品種なのでしょうか。
島バナナの外観は果指が短いことから「モンキーバナナ」と総称されている仲間であることが伺えます。
東京で販売されているモンキーバナナは「セ(シ)ニョリータ」という品種です。

ただ、全国的にモンキーバナナといえばセ(シ)ニョリータかというとそうではなく、お盆の時期に沖縄で輸入されているものは、ラトゥンダンという品種のバナナです。
なぜラトゥンダンを輸入しているかというと、親しみのある島バナナと食味がよく似ているからということのようです。

このように、ラトゥンダンが島バナナと食味が似ていることは以前から言われていました。

石垣島にJIRCAS(国立研究開 発法人 国際農林水 産業研究センター)という国の研究機関があり、その研究員である加藤さん等によるSSR解析(遺伝子の違いを見わける指標となるSSRマーカーを用いた解析)によると、島バナナとラトゥンダンはごく近縁の品種であると判断されました。
おそらく品種として別れるほどの違いではないと考えます。

食味が似ている、形が似ている、遺伝子的に似ているということであれば、おそらく島バナナの品種はラトゥンダンであることが示唆されます。

 
 
※参考文献
仲本光則. 2000. 島バナナの低茎化低着果技術の手引き. 八重山支庁八重山農業改良普及センター.
(編)果樹農業発達史編集委員会. 1972. 果樹農業発達史. (財)農林統計協会.
産業社会学 1 クラス 島バナナ調査ワーキンググループ; 野入直美ほか. 1998. 島バナナと沖縄社会. 琉球大学法文学部.
加藤秀憲・緒方達志・米本 仁巳. 2007. バナナの品種判別技術の開発.熱帯農業; 巻51号: Extra Issue
2;p.49-50. 日本熱帯農業学会.